プレパルス照射後の液体表面の物理・化学的変化ダイナミクス(プラズマ生成、アブレーションによる形状変化、化学反応による吸収スペクトル変化など)に関する知見をもとに、メインパルスのチャープ(レーザーパルス幅内の周波数変化)を様々に変化させて照射した時のX線発光強度ならびにスペクトルの変化を測定した。強度測定にはガイガーカウンターを、スペクトル測定には半導体検出器を用い、実験は室温大気圧下で行った。対象試料には蒸留水や金ナノコロイド溶液の液滴(直径30ミクロンあるいは90ミクロン程度)を用い、チャープの制御は液晶空間光変調器を用いて精密に行った。その結果、ピーク強度が最高であるチャープフリーの最短パルスを照射した時よりも、時間経過とともに周波数(波長)が低く(長く)なるダウンチャープの時でX線強度がより高くなるという結果を得た。またX線発光スペクトルをボルツマン分布を仮定した式でフィッティングして得られた電子温度もダウンチャープのレーザーパルスを照射した時により高くなる傾向が観測された。こうした結果は表面にナノ構造を有する固体試料で得られた結果と類似しており、水溶液を試料とすることで期待される特徴は現在までのところ観測されていないように考えられる。これらの結果は、プラズモン共鳴やプラズマ閉じ込め効果が有利に働き、さらに時々刻々誘起される初期イオン化、電子加速や電子密度の増加に対して、ダウンチャープがより有効であることを示している。
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