サイクロトロンの正弦波型基本波電圧にその3倍及び5倍の周波数のハーモニック電圧を重ね合わせた加速電圧波形を作り、従来分離が不可能であった、質量数と価数の比(M/Q値)の差が1/3000以下の異種イオンを減速し易いRF位相で加速してサイクロトロンのM/Q分解能を従来の10倍以上に向上させることを目指し、加速電極に基本波と3倍及び5倍のハーモニック電圧を同時に発生させる新しい共振空洞システムの要素開発研究を目的として高周波電磁場解析とモデル共振空洞の設計、モデル共振空洞の製作を行った。設計に当たっては、汎用性・コンパクト性に優れたGeV級超電導AVFサイクロトロンを想定し、加速電極面に対して上下の垂直な方向から基本波電圧発生用共振空洞を直結させ、加速電極で電圧振幅が最大となるλ/2波長モードの定在波が励振されるように加速電極、ライナー、加速箱、同軸型共振空洞などの形状・構造・サイズなどを一次元伝送線近似計算及び3次元高周波電磁場解析コードHFSSなどを用いて立体的に決定した。これを基に、基本波電圧を発生させるためのモデル共振空洞(約1/4スケール)を無酸素銅材を用いて製作した。その際、3倍波・5倍波電圧用共振空洞(H22年度製作)を連結したり、性能向上のために共振空洞の連結位置を変えたりできるように機械設計に柔軟性を持たせた。また、共振空洞の性能評価を行うための加速電圧ピックアップ電極及びローレベル信号線等を設置した。 本研究のモデル共振空洞の設計・製作により、サイクロトロンで世界初の基本波・3倍波・5倍波同時励振共振空洞システムの開発の見通しが立ち、学術的な意義は極めて大きい。これにより、サイクロトロンにおいて最高エネルギーの高純度イオンビームが短時間で多種類利用可能になるだけでなく、超高分解能の原子核質量分析等への応用の道も切り開かれ、大きな波及効果が期待される。
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