従来のサイクロトロンでは困難であった、加速イオンの質量数と価数の比(M/Q値)の差が1/3000以下の異種イオンを分離し、最大価数のフルストリップイオン(質量数と価数の比がほぼM/Q≒2のイオン)を加速して本来サイクロトロンが有する最高性能(最大エネルギーでの加速)を発揮させるため、サイクロトロンの正弦波型基本波電圧に、その3倍及び5倍の周波数のハーモニック電圧を重ね合わせた加速電圧波形を生成し、M/Q値の差が1/3000以下の異種イオンが減速され易いRF位相で加速してサイクロトロンのM/Q分解能を従来の10倍以上に向上させ、世界最高のM/Q分解能の達成を目指している。本研究では、従来技術では実現されていない、加速電極に3倍及び5倍のハーモニック電圧を同時に発生させる新しい共振空洞システムの要素開発研究を目的としている。 基本波加速周波数(30~50MHz)の3倍及び5倍のハーモニック電圧の定在波波長が1~3mであることから、長さ1~1.5mの加速電極における半径方向の横モード励振を回避するため、加速電極上に方位角方向のスリットを複数設けて線路長を長くする、或いはハーモニック加速電圧専用の小さな電極を基本波加速電極内に設置してハーモニック電圧加速を個別に行うなどの対策を講じることにより、加速粒子の最終的なエネルギー利得分布が制御可能であることを3次元高周波電磁場・軌道解析コードなどを用いて明らかにした。この手法の有用性を実証するため、1/4スケールのモデル共振空洞の改良を行い、加速ギャップに沿った電圧分布の周波数依存性に関するデータを取得した。本研究成果により、GeV級超電導AVFサイクロトロンのコンパクト化と世界最高のM/Q分解能の実現に必要とされる基本波・3倍波・5倍波同時励振共振空洞システムの開発の見通しを得ることができたことから、学術的な意義は極めて大きい。
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