放射光ビームラインでは、全反射ミラーを配置することによって試料位置でのビーム強度の増強を図るのが一般的である。しかしながら、全反射ミラーは反射光学系であるため出射ビームの方向が変わってしまうので、既存のビームラインに追加するにはビームラインの大幅な改造が必要になる。さらに、調整機構を含めて全反射ミラーの導入自体にも多額の費用を要する。本研究では、既存の放射光ビームラインの光軸上に挿入するだけで、簡便かつ安価に試料位置での光子密度を数倍向上させることができる新規の屈折型X線レンズの開発を目指している。本年度は、1次元集光型のレンズを設計・試作し、SPring-8の兵庫県IDビームラインにおいて性能評価実験を行った。レンズは、X線のエネルギーが10keV、全幅が1mm、焦点距離が12mで設計した。レンズから16m後方における集光ビームの強度を測定した。その結果、強度の利得は3.6倍であった。光線追跡による計算では5.3倍であるので、理想値を下回ってはいるものの良好な集光特性を有することが確かめられた。次に、集光ビームの形状を測定した。ビームはほぼ楕円形で、レンズ無しの場合は、縦方向730μm、横方向550μm、レンズで集光した場合は、縦方向80μm、横方向600μmであった。この結果より、レンズを挿入した場合のビームの面積で規格化した強度(光子密度)の利得は5.6倍になった。1次元(縦方向)のみの集光で5.6倍の利得が得られたので、2つレンズを交差配置にすれば、20から30倍程度の利得が期待できることが確かめられた。
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