放射光ビームラインでは、全反射ミラーを配置することによって試料位置でのビーム強度の増強を図るのが一般的である。しかしながら、全反射ミラーは反射光学系であるため出射ビームの方向が変わってしまうので、既存のビームラインに追加するにはビームラインの大幅な改造が必要になる。さらに、調整機構を含めて全反射ミラーの導入自体にも多額の費用を要する。本研究では、既存の放射光ビームラインの光軸上に挿入するだけで、簡便かつ安価に試料位置での光子密度を数倍向上させることができる新規の屈折型X線レンズの開発を目指している。平成21年度の検討で、2次元(円形)の多段フレネルレンズ(FL)よりは、1次元の(1D-)1段FLの方が、製作の精度及び平易度、光学調整の容易さのいずれの観点においても優れていることがわかった。また、1次元であれば溝方向に連続走査することにより耐久性を向上できるという利点も確認した。本年度は、1D-1段FLを再設計・再製作し、1つによる一次元集光と2つの直交配置による2次元集光についての集光特性評価実験を行った。焦点距離は12m、全プリズム幅は1mm、プリズム数は20、プリズムピッチは50μmのものを製作した。その結果、プリズムアレイ1個による縦方向のみの1次元集光で約130μm、プリズムアレイ2個をタンデム直交配置(KB配置)にした2次元集光で縦約130μm、横約380μmのビームサイズを得た。光子密度の利得は3.1であった。光線追跡によって期待できる集光性能には及ばないものの、良好な集光特性が得られた。以上より、ビームライン粗集光素子としての原理検証に成功した。
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