超伝導磁石の運転には、大きな電流を必要とする。この研究では電圧が要らないことに鑑み、今までにない大電流電源を低い電圧で運用するための基礎研究を行った。トランスの二次巻き線を1ターンにすれば原理的には可能だが実際には漏れ磁場が大きな問題となる。三次元形状を考え、漏れ磁場のない巻き線を開発した。 デモンストレーション実験のために、入力用電源装置・制御装置を製作し、一方で磁性体の特性を調べた。これはFermilabとの協力で行われた。いくつかの磁性体について基礎データが得られ、それにあわせたコイルの最適化を図った。国際協力ではスケジュールの調整が難しく、また震災でディスクが壊れ、一部のデータが失われたため遅延が生じ研究期間の延長が必要だった。 コイルの最適化設計には、三次元の磁場計算が必須である。計算コードにはANSYSを用い、スクリプト言語によりモデルを作成するプログラムを作って行った。近年の有限要素法応用は図面からモデルを作ることが主流になりつつあるが、それでは研究的な計算には不向きである。スクリプト言語を使ってモデルを記述する方法で、ANSYSを回帰的に用いて最適化を自動的に行うプログラムを作成することも出来た。この手法はかなり有用なものであることがわかり、この応用を論文として発表した。副次的なものであるが、これは本研究の大きな成果と言える。 しかしながら、実証実験の結果は不満足なことになった。試作のトランスは磁性体コアの継ぎ目が、大きな磁気抵抗となり、結果的には大電流の生成が出来ず、10kA目標は3kAに終った。継ぎ目をなくすか、継ぎ目を補完する手法を開発する必要があるので、予算終了後も継続して研究を進める必要があると考えている。
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