本研究の目的は、入射中性子スピンと散乱試料中の原子核スピンのスピンを制御することによって、核スピンに依存した新たな中性子実験の開拓に必要となる試料中原子核の核スピン制御技術確立のための、核スピン偏極の移行・拡散に関する基礎研究であり、マイクロ波誘導型光核偏極法で得られたホスト結晶中の原子核偏極について、試料中の原子核への核スピン偏極の移行・拡散(伝播)を調べることにある。核スピン偏極の拡散の計測方法として、印加する磁場に勾配磁場を加え、試料位置とNMRの共鳴周波数との間に依存性を持たせることにより、試料位置中でのNMR信号の強度から偏極の度合いを観測するものである。 そのために今年度は既存の試料陽子偏極装置を本測定に使用できるように以下の改良を行った。(1)磁場勾配発生用の電磁石の追本加を行った。これはまず既存の電磁石の磁場測定を実施し、磁場勾配発生用コイルの磁場計算を行った。次に磁場計算結果検証のために試作コイルを作成し、これによる磁場測定により、設計値との違いを補正する為の再計算と再測定を行い、これらをもとに最終的な磁場勾配発生用コイル設計及び製作を行いその磁場特性を計測評価した。 またこれと並行してESR用キャビティの改良を検討していたところ、ESR用マイクロ波系の安定性の問題が明らかになったので、(2)マイクロ波系の改良を行うこととした。マイクロ波誘導型光核偏極法では核偏極を生成する為にマイクロ波ESRを用いているが、今回の計測に必要な安定的な核偏極を維持し続けるためにはESRの安定性、すなわちマイクロ波系の安定性が欠かせない。これまではGUNダイオード式のマイクロ波発振器を用いてきたが、現在の発振器では本測定に関わる長時間の安定性が保てないことが判明したため、YIG方式による発振器の評価を行い、これを導入した。合わせて印加周波数をモニターしフィードバック回路を構成することによってマイクロ波系の安定性の改善を計った。
|