平成21年度は、クラスターイオン照射と重イオン照射による正2次イオン生成強度比較実験を行うとともに、新たなパルス化装置の設計・作成、2次イオン電流を直接測定する装置の作成、を行った。2次イオン生成強度測定実験に関してはC_8イオン(入射エネルギー:0.8~4MeV)およびMoイオン(入射エネルギー:4~14MeV)を有機系高分子薄膜(ポリチロシン)に照射し、m/z=107および136の正2次イオン強度を測定した。パルス化装置に関しては、加速装置の高エネルギービームライン側に設置するべく、パルス化電極形状のシミュレーションを行い、装置の一部の製作を行った。また、入射イオン強度と放出される2次イオン強度の関係を得る2次イオン電流直接測定装置を試作し、ポリチロシン、PMMA、ポリスチレン等有機系高分子試料を中心に測定を行い、正2次イオン測定を行うに当たっての試作装置の最適測定条件をもとめた。 2次イオン生成強度測定実験により、高速クラスターイオンと高エネルギー重イオン照射による2次イオン強度比較に関する基礎データの一部を採取することができた。C_8イオンとMoイオンの質量はほぼ同じであるが、同じエネルギーで照射した場合に得られる2次イオン強度はC_8照射の方が数倍程度高く、また、C_8照射ではMo照射の数分の1程度の加速エネルギーで同程度の2次イオン強度を得ることができることがわかった。これらの結果は、高速クラスターイオンが高感度なポリアミノ酸分析に有用であることも示している。また、2次イオン強度の入射イオンエネルギー依存性の結果から、これらの2次イオン放出には電子的エネルギー付与が大きく影響することを示唆する結果を得た。これらの有用な知見を国際会議(15th International Symposium on Radiation Efrects in Insulators)で発表した。パルス化装置、2次イオン電流を直接測定装置等、今後、詳細な2次イオン生成強度測定を行うための重要な測定基盤の整備を行うことができた。
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