研究概要 |
安定ニトロキシルラジカルをラジカル捕獲剤として用い、粘土層間中に坦持させることで作製した"ラジカル捕集膜"は、・OHラジカルのような活性ラジカル種を捕獲して安定性が増大したラジカル付加物を形成し、その付加物の安定性が1ケ月以上持続する優れた特徴を持つが、環境中に存在する微量なラジカル化学種を効率的に捕獲するには反応性が十分でないという欠点を持っていた。本研究において、この"ラジカル捕集膜"を粉末化する(粒径:53~100μm)ことで、ラジカル付加物の安定性を損なうこと無く、活性ラジカルの捕獲能力を10倍程度向上させることができた。また、気相でCl_2ガスにYAGレーザー(λ=355 nm)を照射してCl・ラジカルを発生させ、安定ラジカルのDPPH (2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)で捕獲し、生成するラジカル付加物の同定をアルカリ金属を付着させてイオン化を行うIA-TOF (Ion Attached-Time of Flight) Mass測定のようなソフトイオン化質量分析(Mass)で行うと、ピクリル基中のNO_2基とCl基の置換が起きた化学種が生成することを確認することができた。さらに、ラジカル捕獲剤として、(1)水溶性の安定ニトロキシルラジカル、(2)アントラセン骨格を持つニトロキシルラジカル、を用いて粘土層間に坦持させたラジカル捕集粘土膜を調製しておけば、環境中の活性ラジカル種を捕獲したラジカル捕集粘土膜をそのままソフトイオン化Mass測定で活性ラジカル種の同定確認ができ、さらに、ESR強度の変化のみならず、蛍光強度の増大から環境中のラジカル化学種の定量が可能になる分析技術を確立した。今後、この研究成果を応用すれば、人体に有害な環境中の活性ラジカル種等の環境ナノ粒子の分析が可能であり、放射線の有機物への照射によりラジカルが発生することを利用すれば、環境中の「放射線の見える化」研究に発展させることができることを示した。"放射線の見える化フィルム"は2012年度nanotech2012(東京ビックサイト)でナノテク大賞特別賞を受賞した。
|