研究概要 |
C, H, N, Oといったユビキタス元素から構成される有機ラジカルは、設計性・多様性に富み、新しい磁性材料として近年注目を集めている。申請者が世界に先駆けて発見した有機フェリ磁性体PNNBNOは、従来の遷移金属磁性体から成るフェリ磁性体とは本質的に異なる量子フェリ磁性体というカテゴリーを開拓するものであった。本研究は、有機ラジカルの量子特性を明らかにすると同時に、高温有機磁石の開発を行うものである。本年度は分子設計によるスピン構造制御を行うため、新しいラジカル種の開発と磁気測定を精力的に行った。主な研究成果を以下に記す。 (1) これまでニトロキシド系ラジカルを用いた物質設計を行ってきた。ニトロキシド系ラジカルの部分電荷は結晶構造制御に有利であったが、嵩高い置換基を持つために分子間磁気相互作用があまり強くできないデメリットもあった。そこで、本研究では、π共役によって安定化されているフェルダジル系ラジカルに注目し、これを分子内に複数置換する際の合成条件の最適化を行った。実際に3種類の新しいフェルダジルビラジカルの合成に成功し、その分子内磁気相互作用と分子骨格の対応関係、さらに分子間配置と磁気相互作用の対応関係について考察した。 (2) ニトロニルニトロキシドラジカルは、フェニル基の置換基を変えると大きく結晶構造が変化してしまうが、3個以上のフッ素原子をフェニル基に置換することで、類似の結晶構造を実現した。さらに、フェニル基同士の接近によっても強い磁気相互作用が発現し得ることを実証した。
|