研究概要 |
永久歯との交換期にある乳前歯を保有する外来小児患者に対して抜去乳歯の提供を依頼し、同意の得られた乳前歯を分析用試料として収集した。同時に質問紙調査により当該乳歯を保有する小児の出生時の状況についての情報を得た。 本学工学研究科量子工学専攻石井研究室の協力を得て、平成21年度に確立したマイクロPIXE法を応用したエナメル質内微量元素分析のための試料の調整法および測定条件を適応して、異なる健康背景をもつ小児から得られた乳歯の分析を進め、出生前後での元素濃度の比較を試みた。その結果、脳性麻痺児の乳歯の分析において、スキャン範囲のCaおよびPの元素マップ上で、エナメル質内に新産線と判断できるラインを確認することができ、マップ上で出生前形成部と出生後形成部を判別することが可能となった。さらに、この新産線の位置を他の微量元素マップ上にトレースすることにより新産線前後での各元素の濃度を比較した。分析したすべての乳歯で、微量元素としてNa,Mg,Si,Cl,Fe,Zn,Srが検出され、脳性麻痺児の乳歯では加えてKが検出された。線分析によりこれらの微量元素の新産線を挟む領域での濃度を算出したが、計測値のばらつきが大きく出生前と出生後での濃度差は明らかではなかった。CaおよびPに関しては、新産線部における元素濃度は明らかに出生前および出生後より低く、また、出生前のCa濃度は出生後に比較して低く、胎児期の低栄養を反映していると考えられた。本分析方法により、出生前および出生後の微量元素の分布状態と濃度を求めることができ、この比較に基づいて胎内環境の評価ができる可能性が示された。 この成果については、第27回PIXEシンポジウムで発表した。
|