研究課題
当該年度は最終年度にあたり、昨年度に学会発表を行ったデータに対し、さらに追加されたデータとともに、統計的解析を施した。本研究の目的は、早期診断が有効であるとされる小児の広汎性発達障害を対象として、診断および病態評価のための生物学的指標(バイオマーカー)を開発することである。一般に、ヒトでは大脳皮質のおおよそ3分の2が視覚とそれを維持する眼球運動の制御に使われているとされる。したがって解剖学的構造の変化やその他の器質的異常をともなわない、脳の機能的な障害を調べる手段としては、さまざまな観点から眼球運動がよく用いられる。本研究では、とくに随意性の順行性サッカード眼球運動を用いて、幼児から学童期の子どもにおける注意欠陥多動性障害の診断のためのバイオマーカーを見いだすことに成功した。順行性サッカード眼球運動の反応時間のばらつき度合いや一定のズレを生じる課題に対する反応時間の変化率が、注意欠陥多動性障害と診断された被験者群と同年齢の定型発達児群とのあいだで統計学的有意に異なることが明らかとなった。このことから、これまでは保護者や教育現場の観察者による行動パターンや、注意力・衝動性などのような漠然とした症状をもとに、経験に長けた専門医が診断しなければならなかった注意欠陥多動性障害を、わずか数分間の眼球運動測定により診断できる可能性が示唆された。さらには、診断のために感度・特異度を高めるような閾値の設定や、スクリーニングに利用するための工夫が必要であると思われる。現在、これまでの成果をまとめながら論文作成中である。今後、より多くの被験者を対象とした比較研究を行い、実践的なバイオマーカーの確立にむけてデータの集積を続けたい。また、眼球運動の制御に関わる脳内の神経基盤がどのようなメカニズムを通して子どもの脳の機能的発達障害とむすびついているのかを調べることにより、神経科学的な知見にも寄与できるのではないかと考えた。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers technical report
巻: 110巻 ページ: 109-114