本研究は、障害のある子どもにとっての適切な対話環境を学際的な観点で分析し、全人的な発達支援の手掛かりを得ることを目的としている。初年度である平成21年度は、障害のある子どもとの対話が活発に行われるエピソードを蓄積し、それらのエピソードにおいて、どのような環境因子が対話の活性化に作用しているのかを分析した。 特別支援学校の授業(肢体不自由と知的障害の重複の児童の学級)、大学における療育セッション(自閉症のある児を対象)において、ビデオ録画および参与観察により資料を収集した。専門性の高い教員によるオノマトペを含んだ詩を教材とした授業を継続的に参与観察しながら資料収集を行う中で、複数教員で行う授業であるティーム・ティーチングには、児童の興味関心を引き出し、児童の理解を助け、自尊感情を育てるなどにつながる適切な対話環境のキーアイテムを含んでいるのではないかという考えに至った。 そこで、特別支援学校におけるティーム・ティーチングに焦点を当て、授業参加を促進するという視点から複数教員が関与する対話構造を分析した。分析方法は、ビデオ収録した資料をトランスクリプトし、授業参加を促進するエピソードを取り上げ、会話分析の手法を用いて記述・分析した。結果、知的障害と肢体不自由を重複する児童を対象とする授業において、主担当教員が会話を先導してインターラクションを活性化する様子、オノマトペやジェスチャー、視線などマルティモダルな表現や補助教員の補完的説明などにより児童の理解を助ける工夫、児童の代弁、即座に「チームとして」肯定的な応答・評価を行う様子が明らかとなった。 今後は、エピソードをさらに蓄積し、分析を進めていくとともに、対象児の特性や対話における反応と対話環境との関連を探求していく。
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