研究概要 |
本研究は、障害のある子どもの適切な対話環境を学際的な観点で分析し、全人的な発達支援を行うための手掛かりを得ることを目的としている。 平成22年度は、前年度に続いて特別支援学校および大学等での療育場面の資料収集を行ない、障害のある子どもとの対話が活発に行われるエピソードの記述・分析の方法論の確立を試みた。また、ローマで開催された知的障害の国際学会3^<rd> conference of IASSID-Europeに参加し、日本の特別支援学校での障害児の対話について、国際的な視野で考える機会を得た。 記述・分析については、ビデオ資料を会話分析やジェスチャー分析研究に用いられるアノテーションソフトELANを用い、映像、複数の参与者の発話や音声分析資料、コメントなどを含めて記述し、その記述をもとに学際的考察を行うという方法を確立した。 その方法により、オノマトペを含んだ詩を教材とした授業の中で、意思疎通が難しい肢体不自由と知的障害の重複がありかつその障害が重度である児童と教師達との対話を分析したところ、教師は児童の姿勢や四肢の緊張の変化などを素早く察知し、心情を推測しながら共感し、模倣、発話、プロソディの変化、ジェスチャーなど多様な手がかりのあるマルティモダルな表現をしていた。教師がマルティモダルな表現を用いて「想像的な一人語り」(Stern,1977)を行うことにより、児童に「交替の『かた』」(やまだ,2010)を示す場面では、教師と児童との共鳴運動を捉える事もできた。また、教師が児童の模倣的な姿勢・動作をとることが、共感を意味するだけではなく、授業の文脈に児童を巻き込むことに貢献しているのではないか、笑いやオノマトペには、緊張状態の緩和を行う役割があり、活動や参加のバリアを取り除くのに想像以上に重要なのではないか、という仮説も新たに見えてきた。
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