障害のある子どもの適切な対話環境を学際的な観点で明らかにするために、平成23年度は対話環境および障害のある子どもがうける影響の分析を目指した。 資料収集については、障害のある子どもへの音楽療法の経験が豊富で専門性の高い音楽療法士が講師として担当する重度重複障害のある子どもの授業場面を観察・記録することができた。また、最重度で行動問題を持つ自閉症の教育的支援を行うイギリスの私立学校で、児童生徒が落ち着いて過ごすという状況を見る機会を得られ、その背景を探るために学校見学およびスタッフへのインタビューを行った。 対話環境および障害児がうける影響の分析については、前年度までに確立したマルティモーダルな記述方法を用いて、録画資料をもとに分析した。特別支援学校での専門性の高い教師や音楽療法士が執り行う授業の中での、教師達(音楽療法士も含む)同士のインタラクションを含む会話をマルティモーダルな記述方法で記述し、教師達の支援方略のエピソードにキーワードをつけて概念化していった。 分析で明らかになった方略の一つに、「物を放る」、「体を前後に揺らす」というような授業から逸脱した行動と解されるものに対して、「次の児童に物をプレゼントする」、「草競馬の馬のまねをする」とやや過剰な肯定的解釈をある教師が提案して、その解釈を周囲の教師達が受け入れて対応し、その児童を叱責、行動を禁止することなく、ユーモアも交えて授業の文脈に沿った楽しい活動を作り、児童を積極的な参加者として位置付ける、というものがあった。そして、これらの専門性の高い教師達の支援方略は、児童の自尊感情を育て、主体的な活動、参加を形成するのに貢献するという仮説が見えてきた。
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