報告者は日本の農村直系制家族の持続と変動の実態を明らかにすることを目的に、子どもの独立過程とキャリア形成、農業継承、ライフコースに視点をあて、世代間関係と国際比較の分析を試みている。今年度は、農業の起業化を目指したい女性たちに行った実態と意識調査分析を行った。その結果、農業に従事し、起業を目指そうとする女性たちは親世代から援助のある事例が多い。子世代にも多くの援助をしている。生活の共同と分離についても共同する傾向がある。さらに、今年度、報告者はフィリピンの農家の視察(2010年9月)、デンマーク、フランスの農家調査(2010年11月~12月)を行い、国際比較調査を行った。デンマークでは、農業後継者をどのように教育しているか、また、親世代が子世代にどのように援助しているか等について面接調査を行った。農業後継者養成には農業大学校が大きな役割を果たしている。教育費、生活費は社会が保障するため親の教育負担はほとんどない。子どもが独立していく過程においても親の負担は少ない。子どもを育てる過程における制度の違いが浮き彫りにされた。日本の対象世帯と比較するため友好都市関係にあるフランスボーヌ市の農家の聞き取り調査を行った。フランスの果樹農家は日本と異なり、ワイナリーまでも持つ、いわゆる第6次産業化した経営である。子育てに関しては社会的な援助が一般化していて、保育ママの援助が大きい。後継者育成は日本のように直系的な連続を望むよりも親族の誰かが継承してくれればよいという意識があった。この相違は文化的な意識の違いではないかと思われた。また、共同研究者大友由紀子(十文字学園女子大学准教授)はスイス、オーストリアの農家調査を行い、女性農業者のキャリア形成、家族経営について分析した。その結果はベルン大学(2011年1月27日~29日(土))で、報告(ドイツ語)した。
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