本研究の目的は、こどもの健康に影響を及ぼす環境・社会要因のうち、医療における利用拡大が顕著な放射線に着目し、被ばくによる晩期影響に関する定量的な科学的エビデンスを提示することである。具体的には(1)マウスを用いて、胎児期(胎生17日)、新生児期(生後1週)、思春期(3~4週)、成体期(7~8週)に被ばく(γ線および炭素線)した時の発がん率と寿命短縮率の実証的データを出す。(2)病理データのアーカイブを作成し公開を目指す。(3)被ばく時年齢による発がん率のデータの裏付けとして、分子生物学的解析を行い、メカニズムを明らかにする。 1)寿命解析のための動物実験群の観察を継続し、瀕死の状態になったマウスの解剖、病理標本作製(主に、パラフィン切片、HE染色)を行い、病理検索を進めた。新生児では、胸腺リンパ腫、肝がんの発がん率が胎児期被ばくや成体期被ばくに比べて高いことが明らかになった。また、寿命短縮に関し、ゴンペルツ関数による解析を行ったが、n数が少ないためばらつきが大きく解析方法の再検討が必要であることが分かった。 2)アーカイブの作成は、被ばく時年齢依存性のゲノムや病理標本を広く提供するため、今年度はデジタル画像で約5000スライド分のデータを保存し、所内のみならず、外部からもデータを閲覧できるシステムを構築した。将来的には、炭素線のサンプルを含むデータを放医研のHPに掲載する予定である。 3)Tリンパ腫の主要ながん抑制遺伝子であるIkaros遺伝子を中心にDNA、RNA、タンパクレベルで変異解析を行い、Ikarosの変異頻度は乳児期(1-4週齢)に低く、成体期(8-12週齢)高く年齢依存的に変化することが明らかになった。
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