[研究目的] 放射線癌治療で、放射線を受けた組織各部の吸収線量(単位質量あたりエネルギー吸収、Gy)を直接測定する手段はないので、次の方法を提案した。組織に入射した放射線は相互作用を起こして、放射線のエネルギーを組織へ移行する。高エネルギーでは、そのエネルギーが物質に転化して電子・陽電子(ポジトロン)が生成される。ポジトロンは電子の反物質であるため、作られた後体内分子中の軌道電子と結合して消滅する。その際にポジトロンのエネルギーはフォトンとして放出される。本研究はこのフォトン発生を利用して、照射領域の検証や吸収した線量を評価する。フォトン・エミッション・ベリフィケーション(PEV)と名付けた。 従来、PEV法の原理実証試験、照射領域測定の成功、フォトン発生点分布の測定に成功した。今年度は、PEV法を臨床利用へ発展させるために、以下2項目の研究目的を達成し、PEVカメラ(PEV法により測定を行う専用装置)の仕様を決定することであった。 (1) リアルタイムでの照射領域測定精度評価と装置の信頼度向上 (2) 装置のコンパクト化と治療室に設置できる外観の改善 [成果] (1) リアルタイムでの照射領域測定精度評価について、汎用シミュレーション法であるGeant4(ジアント)を用いて理論的に検討し、それに従った検出装置を設計した。 (2) 本経費の補助により、YAP (Ce)シンチレータと光センサーモジュールを組入れたフォトン検出器を8台と、これらを3次元的に移動できる架台を製作して信頼度を確認した。 (3) この検出器を用いて、首都大学東京(電子ライナック)において、人体模擬ファントムを使い、臨床と同じ条件で照射。データを解析した結果、設計通りの性能が出ていることを確認。 本科研費を獲得できたので、決定した仕様に基づきPEVカメラを製作した。また、理論的な予測に基づき、PEV法の有用性を立証、PEVカメラの仕様を決定できたので、国内学外学会で発表した。
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