研究概要 |
エタノール発酵糸状菌Mucor javanicus J株は、ヘキソースおよびペントースから好気条件で強力なエタノール発酵能を有する。この現象を解明するために、ペントース代謝経路の解明を行うためにCE-TOFMSによるメタボローム解析を実施した。その結果、いずれの基質においてもTCAサイクルは活性化しているものの、ピルビン酸デヒドロゲナーゼおよびアルコールデヒドロゲナーゼの活性化強く、好気条件下で迅速にエタノール発酵が可能であることが判明した。しかし、キシロース代謝において、培養後期にグリセルアルデヒド-3-リン酸の枯渇が生じ、エタノールの生成が滞ることがわかった。一方、本菌株は、稲わら等を基質として培養した際に、endo-β-glucanase(EBG),cellobiohydrolase(CBH),β-glucosidase(EG)などのセルロース加水分解酵素を分解することがわかった。特に、EBGの分必量は良好であったが、CBHおよびEGの分泌量は少なく、同時糖化発酵プロセスには酵素の発現量が少ないことが示唆された。そこで、当研究室のMucor属ライブラリーからEGを良好に分泌するをスクリーニングし、この菌株とM.javanicus J株との融合株を新規に調製した。この融合株のみを用いて100g/Lのアルカリ処理稲わらの糖化発酵同時進行(CBP)を行った結果、培養36時間目に3.5g/Lのエタノールを生産できるに成功した。この結果から、当研究で開発した新規なエタノール発酵糸状菌は、エタノール発酵能のみならず、セルロース系バイオマスを分解する酵素群を良好に分泌できるカビで有り、次世代型のエタノール発酵システムであるCBPに対応できる菌株として活用できることが実証できた。
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