研究課題
本研究では、光合成微生物である好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusにH+を水素に還元する酵素遺伝子を導入することによって、光合成と同期した水素発生を最終目標としている。最終年度は研究計画に従い、光合成の初発反応を担う光化学系II複合体の反応中心タンパク質D1の部分構造を変えて、H+放出の基盤となる水の酸化速度と構造との関係を調べた。Thermosynechococcus elongatusのゲノムにはD1タンパク質をコードする遺伝子が3つ存在し、それぞれがコードするアミノ酸配列は異なる。昨年度までの研究で、これらのうちの2つをそれぞれ強制的に発現させて光化学系IIを作らせる好熱性ラン藻の組換え体を作製し、単離・精製した光化学系IIの分子構造と機能を調べた。その結果、水の酸化速度がQA→QB間の電子伝達速度に依存しており、その速度を決めるQBの酸化還元電位はキノン近傍のアミノ酸との水素結合様式によることが分かった。本年度はQB周辺構造に加えて、水の酸化過程で放出された電子を受容するTyrZ近傍にあり、膜貫通ヘリックス間をつなぐループ部分のProがMetに変わった3つめのD1をもつ組換え体を作製し、単離した光化学系II(PsbA2-PSII)を用いて水の酸化速度とH+放出について調べた。その結果、PsbA2-PSIIのQA→QB間の電子伝達速度はPsbA3-PSIIと同じように速いものの、水の酸化融媒中心からTyrZへの電子伝達速度が遅くなっており、結果として、水の酸化速度全体がPsbA3-PSIIの約3倍遅くなっていることが明らかになった。更に、構造とキネティクスを詳細に調べたところ、TyrZとHig190の水素結合距離がループ構造の変化によって長くなり、電子の移動と同期してH+が放出される(PCET)速度が遅くなっていた。以上の結果から、H+の放出速度は、還元側の電子の引き抜き速度のみならず、酸化側の電子移動速度に伴うH+の放出・移動速度に大きく依存することが明らかになった。今後、水素生産に用いる光化学系IIは1)還元側、特にQA→QB間の電子伝達速度が速く、2)酸化側のH+の移動速度が速くなるようにTyrZを含むH+パスネットワークを構築することが必要であることが分かった。
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