平成21年度は、計測機器、設備、環境の確認と安全面と個人情報の取り扱いについての点検からおこなった。本研究では統制のとれた音声刺激を作成すること、および、刺激の提示を正確なタイミングで行うことが重要となるため、その方法について検討した。本年度には研究項目として挙げた、乳児における「声の知覚」に選択的な活動を示す大脳皮質領域の同定、乳児における「母音と子音の知覚」に関わる皮質領域の同定の両項目に関連して、「子音の知覚」に関してのデータを得た。ボランティアでご協力いただく3ヶ月齢の乳児を募集し、研究の趣旨を乳児の保護者に説明した上で、同意書に記入いただいた方を対象に計測を行った。音声知覚に関わる興味深いデータが得られており、解析を進めている。また、本年度には計測に用いている多チャンネルの近赤外光トポグラフィーで得られるデータについて、新たなデータ解析法の開発もおこなった。酸素化ヘモグロビン信号の相対的な変化を計測し、信号の時系列に関してチャンネル間で相関解析することで、領域の間の関連性を分析する方法である。この方法を用いて、新生児から3ヶ月児、6ヶ月児へと発達とともに脳の領域間の関係性が変化し、ネットワークが形成されていくことを明らかにした。相関係数を指標として脳の領域をグループ分けし、脳の左右両半球にまたがるグループが月齢とともに形作られていくことを示した。発達の過程は脳の領域によって異なり、関係性が増加するパターン、減少するパターン、減少してから増加する「U字型変化」の3つのパターンがあることを報告した。これらの結果は、乳児期初期に脳が機能的に発達していく様子を明らかにしたもので、感覚情報の統合や認知発達、言語獲得を実現する脳のメカニズムを解明することにつながるものである。この結果をまとめて「The Journal of Neuroscience」誌に発表した。
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