平成22年度は、乳児における「声の知覚」に選択的な活動を示す大脳皮質領域の同定に関するデータを、多チャンネルの近赤外光トポグラフィーを用いて計測した。ボランティアでご協力いただく3ヶ月齢の乳児を募集し、研究の趣旨を乳児の保護者に説明した上で、同意書に記入いただいた方を対象に計測を行った。乳児における「母音と子音の知覚」に関わる皮質領域の同定に関しては、すでに収集した「子音の知覚」に関するデータの解析を進めた。乳児の音声知覚に関わる興味深い結果が得られ、平成23年度に結果をまとめて報告する予定である。また、乳児が音声を聴取する際に重要な情報となる、音の高さ(ピッチ)の情報をどのように処理しているのかについて、これまでに得られている知見と楽器音について得ていたデータをまとめて報告した。静睡眠時の3ヶ月児と6ヶ月児にピッチの時間変動の程度が異なる3種類の音系列を堤示し、近赤外光トポグラフィーで大脳皮質の活動を計測した。3ヶ月齢群と6ヶ月齢群の両方で、左右両半球の聴覚野領域を含む側頭葉で活動がみられた。3ヶ月齢では、右半球の側頭頭頂領域がピッチの変動が短い時間幅で大きい刺激列に対して顕著な活動を示した。この領域は、抑揚のある音声を聞いたときに大きな活動を示す領域と解剖学的に極めて近い領域であった。6ヶ月齢では、より時間的に長い範囲での変動がある場合に右半球側頭頭頂領域での顕著な活動が見られた。また、右半球前頭葉前部にも同じような活動パターンを見ることができることから、2つの領域の間に機能的な関係性が構築されてきていることが示唆された。これらの結果は、乳児期初期に音系列の処理が発達的に変化していく様子を明らかにしたもので、音を受容・知覚する時間幅の変化と音声知覚の関連性を解明することにつながるものである。この結果をまとめて「Human Brain Mapping」誌に発表した。
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