研究概要 |
計算機ネットワーク,自律分散ロボット,分子計算など,様々な領域に出現する巨大分散システムを統一的に議論するための分散計算モデルを設定し,その上に分散計算論を構築することが研究目的であった.対象とする巨大分散システムを巨大性(エージェント数が巨大である),動的性(システム構成が変化する),ランダム性(システム変化は確定的ではない),低信頼性(システム要素は故障する),匿名性(システム要素は固有の識別子を持たない)によって特徴付け,これらの特徴を有する巨大分散システムを制御するための分散計算論を構築することを目指した.本年度は特に,エージェントが大域的に固有の識別子を持たない場合の分散計算論を自律分散ロボットシステムに対して構築することを試みて,具体的には,以下に述べる結果を含むいくつかの結果を得た.ロボットシステムはロボット間の同期の程度によって,完全同期システムFSYNC,完全非同期システムASYNCH,そして,その中間に当たる,準同期システムSSYNCHに分類される.これらのロボットが自律的に与えられた幾何的パターンを描くアルゴリズムの存在を問う問題はパターン形成問題と呼ばれる基本的な問題である.我々は,匿名のFSYNCHでは,記憶の有無はロボットのパターン形成能力に関係しないこと,そして,匿名のSSYNCHでは,記憶が役立つのは2台のロボットの点形成(すなわち1点への集合)に限ることを示した。さらに,2台のロボットの点形成問題の非可解性が,(SSYNCHとFSYNCHという同期の差から顕在化した)2台のロボットが持つ局所座標系の一貫性のなさから出現したことを踏まえ,2台のロボットが記憶なしで点形成を行えるために必要十分な一貫性の量を厳密に証明した.前者の結果はTheoretical Computer Science誌から公表済みであり,成果として載せているが,後者はSiam Journal on Computing誌からMinor revisionを要請されていて,すでに改訂版を投稿済ませた段階である.
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