ザリガニは、顎脚と呼ばれる扇状の付属肢を口元に3対持つ。顎脚を動かして能動的に水流を起こすことにより、小触角にある嗅覚受容細胞に向けて周囲から匂いを集め、水の流れが淀んだ環境でも高感度に餌の存在を検知する。本年度は、ザリガニの顎脚を模倣したアームを自律水中走行ロボットに取り付け、静水中で化学物質の発生源の位置を突き止める実験を行った。 昨年度までに製作した試作機は顎脚アームを1対備えており、化学物質を前方から集めて検出することができた。しかし、発生源から放出された化学物質の比重が大きく、水底に沈んでしまった場合、これをセンサまで引き寄せて検出することはできない。ロボットが化学物質源の真上を通過しても、センサ応答が全く得られなかった。そこで今年度は、ロボットに2対目の顎脚アームを取り付けた。1対目のアームで前方に向かう斜め下向きの水流を作り、水底に沈んだ化学物質を巻き上げる。2対目のアームを上向きに振って、周囲からアームに集まる水の流れを作り、巻き上げた化学物質を化学センサに引き寄せる。 このように改良を施したロボットを用い、海外共同研究者であるハル大学のThomas Breithaupt講師と共に実験を行うため、8月20日から16日間、イギリスに赴いた。実験では、大型実験水槽の中にアスコルビン酸水溶液を放出し、これをロボットに搭載したアンペロメトリック電気化学センサで検出して、発生源位置を突き止めることを試みた。その結果、顎脚を動かした場合は発生源の探知に100%成功したのに対し、顎脚を動かさない場合は探知が全て失敗に終わり、能動的に水流を起こすことの効果を実証することに成功した。この実験の模様は、BBCテレビのローカルニュースでも取り上げられた。
|