研究概要 |
共創的な活動を通じて他者とのつながりが深まると,身体の境界が開かれ「包まれることによって包む,包むことによって包まれる」"共振"の感覚が発現する.本研究ではこの共振状態が発現するメカニズムを解明することを目標とする.そこで二者が身体の一部を触れ合わせながら即興的に創る身体表現(手合わせ表現)に着目し,共振状態の発現過程での身体運動や心理状態の計測,および計測データを踏まえた共振のモデル化とその活用方法について研究する.本年度は以下に示すように,研究計画に従い,手合わせ表現過程における身体的インタラクションのリアルタイム計測装置を開発するとともに,それを用いた実験的研究を主に行った. (1)実際に現場で実施される手合わせ表現は自由度が高く,複雑である.そこで,被験者が向かい合って座り,手のひらの動きを板が前後にスライドする機構により,前後方向の1自由度に限定する手合わせ装置を考案開発した.また,本装置によって共振状態が創出されることを,共振の実践的体験を数多く有する熟練者により確認した. (2)共振状態に向かうプロセスに関わると予想される,双方のリードする・されるといった能動・受動的関係の移り変わりを客観的に計測することを目標に,随意動作と反応的な動作で振幅や立ち上がりのタイミングが異なる筋電位,および双方の力のやりとりを計測する装置を開発し,手合わせ装置に組み込むとともに,それらの有効性を検証した. (3)モーションキャプチャによる上半身動作計測装置を構築し,手合わせ表現では,上半身の先行的・無意識的な動作がイメージや思いを生成するための「タメ」として働く可能性があることを示した. (4)性別や年齢,障害の有無といった多様な人々による本装置の体験とその評価,さらには地域社会での身体表現活動の現場における手合わせ表現の体験などを通じて,開発した装置による共振計測の妥当性について検討した.
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