研究概要 |
本研究の目的は,物体の大きさを判断する手がかりとして音がどの程度影響するかを確認するために,視角上は同じ値で与えられるボールが床に落ちて弾む場面にそのボールの共鳴音を付けることによってボールの大きさが異なって知覚されるかどうかについて調べることにあった。 前年度までに,視覚的な手がかり以外に聴覚的な手がかりも大きさ判断の手がかりとして確実に使われることが確認されてきた。ただし,この判断はボールが弾む音を人工的に加工した場合のものであったため,今年度はより実環境に近い刺激条件として楽器の大きさの判断を聴覚的手がかりからどの程度出来るかを調べた。用いたのは,バイオリンとビオラであった。視覚的な手がかりと共に呈示する前に聴覚刺激単独の場合の判断の精度について検討を加えた。弦の違いによる音域の違いを排除するため,共通する音域に限定して調べることによって共鳴周波数の違いに基づく判断のみに焦点を当てた。そのために開放弦の3音だけに限定して実験を実施した。この条件では弦楽専攻生であっても確実に2種の楽器を区別して同定することは不可能であることを示す実験結果が得られた。バイオリンとビオラでは約10%の胴体寸法の違いがあり,その程度であれば共鳴特性の違いに基づく弁別は先行研究の知見からもできても不思議ではないにもかかわらず,実際には困難が伴っていた。その理由として,同じ高さを出す場合の弦の位置が違うことによって胴体の共振の異なるモードが駆動されることにより,胴体寸法の違い以外が音響刺激に混入することがあることが分かった。 ものの大きさは視覚的には視角と距離情報が適切に与えられないと判断はできないのに対し,音信号については空洞の共鳴に限定すれば絶対的な手掛かりとなりうることが示された一方で,実世界では空洞の共鳴だけが提供されることはなく,視角同様に不良問題性が存在することを確認できたことは意義深い。
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