近年、国民の個人情報に対する関心の高まりなどを背景として、社会調査を取り巻く環境が厳しくなる中で、研究者が取り扱えるデータについても制限が生じつつある。そこで本研究では、標準的な手法として用いられてきた住民基本台帳や、選挙人名簿などのサンプリング台帳を用いた個人標本抽出に代わり、社会地区類型(ジオデモグラフィクス)による調査手法の提案を行ったものである。本研究では、我が国の町丁目を基本単位としてそれらのライフスタイル特性に基づき、複数のレベルで類型化、抽出することが可能なシステムを用いた。この社会地区類型を用いた手法は、先行する知見として欧米における学術的な議論においても、近隣などの小地域単位データの重要性と既存の行政区画を小地域として用いることの利点に関する知見が示されていることから、有用な手法の一つとして位置づけることが可能であると考えられた。また、社会地区類型に基づき構築されたデータの分析より、我が国において居住地域での健康状態に違いが生じており、その違いは居住地域における特性(文脈効果)により形成されている可能性が推察された。以上の結果は、ともすれば我が国において、その社会的、文化的な同一性傾向から、欧米諸国などとは異なり町丁目においてはそれほど健康状態に違いがないのではと考えられていることが多いなかで、我々が住み暮らす、いわゆる生活空間などの密接な地域単位で検討を行った場合に必ずしもその同質性が保持されているわけではないことが推察された。このように、社会地区類型に基づく新たな社会調査法の提案は、社会調査が直面している限界の克服に貢献するにとどまらず、健康領域における新たな議論の創造にもつながることが考えられた。
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