本研究は、小脳プルキンエ細胞をモデルとして、樹状パターン形成機構に細胞間相互作用(局所活動や細胞間接触)によるプログラム非依存的なニューロンの樹状突起形態のりモデリング機構を明らかにすることを目標とし、今年度は以下の課題に取り組んだ。 (1) プルキンエ細胞樹状突起分岐の時空間的ダイナミクスと制御シグナルの同定:幼若個体から解離したプルキンエ細胞を分散培養下で長期間タイムラプス観察し、樹状突起成長のダイナミクスを明らかにした。細胞形態を抽象化して樹状突起の伸長、分岐、退縮の速度、頻度などの時空間的遷移を定量的に解析し、数理モデルを構築してシミュレーションを試みた。その結果、接触依存的な突起退縮が生体でのプルキンエ細胞に特徴的な分子空間分布に重要な影響を与えることが明らかになった(論文投稿準備中)。 (2) 入力線維の活動による樹状突起リモデリングのメカニズム:前年度の研究で、生後発達期のマウスにハルマリンを持続的に投与し登上線維の活動を昂進させると、プルキンエ細胞樹状突起のリモデリングが阻害されることが明らかになった。ハルマリン投与によるリモデリング阻害機構を明らかにするため、ハルマリン投与の時期を振り、入力する登上線維活動がプルキンエ細胞樹状突起のリモデリングを誘導する有効な時期(臨界期)を解析した。その結果、樹状突起形成を撹乱するためにはハルマリン投与は生後2週齢の4日間以上必要で、3日間では樹状突起パターンへの影響は見られないことが明らかになった。またトレーサーBDAまたは膜移行型tdTomatoを発現するウイルスベクターを下オリーブ核ニューロンに注入して形態学的な入力パターンを精査し、登上線維入力と樹状突起形態の相関関係を明らかにする系を確立した。
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