本研究では、登上線維-プルキンエ細胞シナプスの選択的強化・除去がどのように進行するのかを明らかにするために、実験操作が容易なin vitro共培養系を確立し、複数の細胞やシナプスを区別して標識することで、選択的なシナプス強化・除去に伴う構造変化をリアルタイムで観察できる実験系の開発を目指している。生後7~10日のマウスから小脳スライスを作製し、胎生15日のラットの延髄と共培養した。培養7日後と14日後に小脳プルキンエ細胞から記録し、延髄片を電気刺激して、共培養下で進行する登上線維シナプスの形成と除去を電気生理学的に評価した。平成21年度は以下の結果を得た。(1)培養下でおこる過剰な登上線維シナプスの除去がin vivoと同様の分子機構によるかどうかを、薬理学的操作や遺伝子操作により調べた。その結果、in vivoと同様、1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)やデルタ2型グルタミン酸受容体(GluD2)が培養下のシナプス除去にも必須であることが判明した。(2)登上線維やその標的細胞であるプルキンエ細胞を蛍光タンパクの発現により可視化する方法を試みた結果、登上線維の可視化には局所的エレクトロポレーション法あるいはレンチウィルスベクターにより蛍光タンパク質の遺伝子を導入する方法が最適であることがわかった。また、プルキンエ細胞の可視化にはプルキンエ細胞特異的であるL7プロモーターとその下流に蛍光タンパクを持つレンチウィルスベクターを用いた導入方法が最適であった。(3)3種類の蛍光シグナルを検出できるようにレーザーなど顕微鏡の改良を行った。これらの成果の一部を、2009年9月の日本神経科学学会で発表した。これらの成果は、目的達成に必要とされる技術がおおむね開発できたことを意味しており、次年度の研究の発展が期待できる。
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