TILLING法による遺伝子変異個体の作製は、数千個体よりなるランダムミュータジェネシスした変異ライブラリーから、目的の遺伝子に変異が導入されている個体を選別するという手順を経る。小型脊椎動物で手軽に扱えるモデル動物として注目を集めているメダカやゼブラフィッシュでは、すでにこの手法により数百種類の遺伝子破壊体が作られている。現在は、数千個体すべてについて目的遺伝子を直接塩基配列決定ないし温度融解曲線を使用する方法で変異探索を行っているが、変異の頻度が低いために効率が極めて悪い。そのために、変異をキャプチャーできるMuトランスポゾンをビオチンタギングし、変異を濃縮する方法を試みた。Muトランスポザーゼが結合するDNA断片を合成し、その末端にビオチンを結合させた。不要部位を後に切断除去するために制限酵素部位を導入した変異型DNAは、大腸菌で発現させたMuトランスポザーゼと結合し、タンパク-DNA複合体を形成した。すでにTILLING法で作製し報告済みのp53変異体と野生型のメダカよりそれぞれ変異部位を含むDNA断片をPCR増幅し、熱変性、アニールによりヘテロデュプレクスを形成させてMuトランスポザーゼ-DNA複合体を反応させたところ、転移反応が観察された。DNAを回収し、塩基配列を決定したところ、目的の部位以外にも転移するなど、感度、特異性ともに十分満足のいく結果が得られなかった。そのため、Muトランスポザーゼによる転移反応から、ビオチン化したオリゴヌクレオチドをT4リガーゼによりアダプターライゲーションする方法に変更した。Muで確立した手法によりp53ヘテロデュプレクスからDNA断片を回収して塩基配列を決定したところ、変異を含む断片が効果的に沈降されていることが確認された。現在イルミナGAIIxを用いた大規模シーケンスにより、変異部位の単離同定を進めているところである。
|