ヒト難聴患者の社会行動解明のための基礎データ収集を目的とし、行動学的解析および遺伝学的解析を行った結果、以下に示す知見が得られた。 1.社会行動モニタリング 昨年度までに行った性成熟後に劇的な聴力低下を示すDBA/2J(D2)系統と約12ヶ月齢で聴力低下を示すC57BL/6J(B6)系統のF_2マウス社会行動モニタリングの結果、早発性の難聴個体は不動時間が長期化、行動速度の低下および接触回数の低下も検出が認められた。そこでこれらの行動データを指標として、QTL解析を実施した。その結果、すべてのカテゴリーにおいて第11番染色体に高いLODスコアが検出されたが、この領域はD2の早発性難聴の責任遺伝子の一つであるfascim-2が存在する領域であることから、このQTLは行動のデータを支配する領域ではなく、D2の聴力を反映するものだと考えられた。一方、行動速度の低下においては、聴力を指標としたQTL解析において検出されなかった統計学的に優位なQTLが複数検出され、特に、4番染色体の末端部にLODスコア4.2と高いQTLが得られ、この領域には難聴後の社会行動と関連する遺伝子の存在することが示唆された。そこでこの領域の遺伝子マーカーを用いて関連解析を行った結果、この領域がD2のアレルを持つ個体が優位に行動速度の低下を示した。 2.JF1系統の社会行動モニタリング 昨年度までの解析において、JF1マウスの聴力損失個体と聴力維持個体間で社会行動に有意な差が認められなかったことから、JFIとその復帰突然変異体であるJF1-s^+との間で行動比較を行なった。その結果、JF1-s^+が行動速度における速度の上昇が認められたが、統計学的な有意差は認められなかった。
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