研究概要 |
ミトコンドリア病の1種に、ミトコンドリア内のゲノム(mtDNA)のコピー数の著しい減少によって起こるMitochondrial DNA (mtDNA) depletion syndromes (MDDS)と呼ばれる疾患がある。この疾患は、正常なmtDNAのコピー数が著しく減少するため起こる病気である。ミトコンドリアミオパシーを引き起こすMELAS、MERRF、CPEO等のミトコンドリア病は、異常なmtDNAと正常なmtDNAとが1個の細胞中に共存し、異常なmtDNAの増加により正常なmtDNAのコピー数が減少することで起きる。MDDSの発症機構を参考にすると、これらのミトコンドリア病の発症は、MDDS同様正常なmtDNAコピー数の減少によって生じると考えられる。本研究では、Mitoマウスと呼ばれるミトコンドリア病のモデルマウスを用いて、この仮説を証明するために企画した。 Mitoマウス中のmtDNAの総コピー数を高める目的で、ミトコンドリア転写因子A(Tfam)を全身に強制発現したトランスジェニック(Tg)マウスを作製した結果、このマウスは細胞当たりのミトコンドリアの量が著しく増加していることが分った。そこで、このTgマウスとMitoマウスとを交配し、Mitoマウスが呈する様々な機能不全が回復しているか否かを観察した。その結果、mtDNAのコピー数が増加しているMitoマウス個体では、病態の著しい改善が見られた(Nishiyama, S, et al. BBRC 2010)。今後は、ミトコンドリア増加型Tgマウスと逆の表現型を持つと考えられるTfam遺伝子を破壊した遺伝子改変マウス(Tfam-KOマウス)を作製し、Mitoマウスと交配して、そのマウスの症状が悪化するか否かを明らかにして行く予定である。
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