研究概要 |
一般的に成人の心筋細胞は終末分化した細胞と考えられ,生まれた直後に分裂能を失い,増殖しないものと理解されてきた。したがって,心筋梗塞や拡張型心筋症によって心筋細胞に壊死が起こった場合,心筋細胞は再生されずに心不全になって死亡する。成人の心筋細胞が生後の分化によって,細胞周期から抜け出して分裂能を喪失するメカニズムは,これまでにも,その重要性から,様々な観点から膨大な研究が行われてきたが,未だ「謎」として残されている。本研究の目的は,「脱分化した終末分化心筋細胞において核分裂と細胞分裂の解離を制御している,すなわち肥大と増殖をスイッチしている制御メカニズムを解明する」ことである。本年度における研究成果は,以下のようにまとめられる。 1.新生ラット心室筋細胞の培養系において,RNA干渉法によりCx43の発現をdown-regulationすると,心筋細胞は細胞分裂周期に再突入し,増殖することを明らかにした。Cx43 knockdownによって,心筋細胞内シグナル伝達系,とくにp38 MAPK活性の抑制およびFGF1発現の上昇を介したシグナル伝達変化が,心筋細胞における増殖能の再獲得に重要な役割を果たしていることが分かった(Matsuyama & Kawahara, Basic Research in Cardiology, 104 : 631-642, 2009)。 2.心筋細胞培養系に対して,ROSとして過酸化水素(H_2O_2)を付加すると,p38 MAPKの活性化を介するCx43発現増加が起きることが分かった。そしてH_2O_2の付加によるp38 MAPKの活性化は,H_2O_2をwashoutしても少なくとも数日間は高い活性を維持していることが明らかとなった。このことは,ROSによってp38 MAPK,Cx43を介する閉じた制御系が形成されている可能性を示唆している。
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