研究概要 |
培養基板の力学特性の空間分布を操作することで細胞の機能や配向をどこまで制御できるか,その可能性を追求するために,表面の薄層のみ力学特性が異なる基板を用いた細胞の基板力学特性検知機構の解明,弾性率が場所により異なる基板を用いた細胞分離,力学的異方性を有する基板を用いた細胞配向制御を進めることを目的として2年間の研究を進めている.研究初年度の本年は,まず,表層の厚みを変化させた2層基板の作製とこの上での細胞挙動観察を行った.すなわち,表層だけが柔らかい基板を作製するために,ガラス基板上に厚さ数~100μmのポリアクリルアミド・ゲルの薄膜を成形する方法を確立した.作製した表層厚みの異なる基板上で種々の細胞を培養し,どの厚みから細胞の形態等に変化が見られるか調べた.その結果,柔らかい厚い基板の上で培養された細胞は丸くなるが,ゲル厚みが10μm程度になると広がり始めることが判った.これより,細胞は自身の寸法(~100μm)より遙かに小さい10μm程度の深さの基板硬さまでしか察知できないことが判った.この結果は細胞が底面全体を変形させて基板の力学特性を計測しているのではなく,個々の焦点接着斑を独立に運動させて力学特性を計測している可能性を示唆する結果と言える.この点を定量的に調べるために,焦点接着斑に加わる力とそれにより生じる焦点接着斑の変位に対する基板厚みの影響の有限要素解析を行った.この結果,細胞が基板弾性率を焦点接着斑の動きの大きさで察知していることを示唆する結果が得られた.
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