本研究では、幹細胞の分化制御技術として、個体発生における自己組織化を人為的に誘導することができる、新しい生体材料を挑戦的に開発する。この目的のため、自己組織化誘導など、複数の生体因子や細胞群が互いに相互作用しながら形成するパターンを取り扱う、システムバイオロジーに着目した。これらの知見を利用して、生体材料を用いた自己組織化誘導に基づく幹細胞の分化制御や、機能をもつ生体組織の自己組織化誘導にチャレンジする。平成21年度では、パターン形成を行う前段階として、細胞の分化制御に必要なタンパク質や遺伝子を固定化するための技術を開発した。具体的には、ガラス基材表面に化学導入したアミノ基にproteinAを化学固定後、Fcドメイン融合Jagged1(Jagged1-Fc)を加え、IgG抗体のFcドメインとの特異的相互作用力を利用することによって、Jagged1をその配向性を制御しながら、基材表面に固定化した。導入した官能基やJagged1の固定化量の評価は、XPSなどの表面分析ならびに放射ラベル化したJagged1を用いて検討した。固定化条件を最適化した基材を用いて、骨髄細胞から単離した造血幹細胞を含む分画の細胞を培養したところ、Jagged1-Fcの非特異的な吸着固定基材に比べて、Jaggedl-Fcを配向固定化した基材上では、造血幹細胞分画が有意に増幅されていることがわかった。これらの研究を通じて、配向制御されたリガンドの固定化が細胞の機能制御に重要であることを明らかにした。
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