研究概要 |
腫瘍化に伴う遺伝子レベル、あるいは分子レベルでの変化が解き明かされることによって新しい治療戦略が開発されてきた。特にがん遺伝子産物に関する知見や細胞内シグナル、血管新生、そして転移機構などに関する近年の著しい進展は、従来にないコンセプトに基づく化学的あるいは生物学的に治療法を可能にしている。しかしながら、これら新規薬物の治療効果を最大限に引き出すためには、同時に病変部位への薬物輸送システム(ドラッグデリバリーシステム,DDS)の開発が必要不可欠である。標的細胞への的確な薬物輸送は、副作用の低減と投与量の減少を通じてこれまでの薬物治療に大きな改善をもたらすであろう。 そこで本研究ではタンパク質べースのナノDDSキャリアの開発を行った。このタンパク質は自己組織化により24量体となり、直径約12nmの球状構造体を構成する。われわれはこのタンパク質を天然のナノカプセルとして捉え、これを遺伝子工学的に改変することで、二重刺激応答的に崩壊するタンパク質ナノカプセルを構築した。具体的にはMj285にプロテアーゼFactor Xaもしくはカスパーゼ3の切断配列を導入した変異体を構築した。これらの変異体の中で、いくつかは生理的条件下において安定な24量体を形成することが可能であった。これらのナノカプセルにプロテアーゼを作用させたところ、カクセルは配列特異的に消化されることが明らかとなった。これらの知見は疾患特異的なプロテアーゼにより、患部周辺でのカプセル崩壊・薬物放出が可能であることを示唆している。今後、引き続きカプセルの機能化について詳細な検討を行う。
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