研究概要 |
市販のステンレス製注射針(外径φ0.71mm×内径φ0.41mm×長さ50mm)の先端から4mmの深さまでφ0.5mmのドリルを通し,壁の厚さを0.1mmまで減少させた.これにφ0.5mmのAg線を挿入し,エポキシ接着剤で真空封止を行った.製作した専用のアダプターを介してこの注射針を1.6MVタンデム型静電加速器のビームラインの末端に置いたホルダーに取り付けた.このホルダーをアクチュエータにより遠隔操作し,注射針のアライメントを行った.タンデム加速器からの2.5MeV陽子を四重極電磁石により集束してこの注射針に導入し,針の先端のAg標的を照射した.針先端の真横にCd-Te半導体X線検出器を置き,発生するX線のエネルギースペクトルを測定したところ,AgのKα,KβX線(エネルギーはそれぞれ22keV,25keV)の他,ステンレス製注射針内壁への陽子線の衝突によるCr,Fe,Niのピークも見られた.これらの強度比を詳細に調べたところ,目的とするAgのX線の強度は,FeのX線の10^2-10^3倍であった.これにより注射針の壁を適度に薄くしてのフィルターとして用いることにより,ほぼAgのKX線のみを取り出せることが分った.この結果,従来用いられていなかった低エルキー準単色X線による深部ガン治療の実現可能性が明らかとなった.一方,エネルギースペクトルから計算したAgのKX線の絶対強度から等価な放射能と表面線量率を評価したところ,放射能は数kBq,吸収線量率は注射針の表面でも数mGy/h程度であった.よって強度が低く直ちに治療に使用することは困難であり,実用化のためにはX線強度を2~3桁増強させる必要があることが分った.
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