研究概要 |
脳損傷後によって生じる注意障害には、持続性、選択性、容量性(分配性)など,いくつかのサブコンポーネントが報告されている。複数課題を同時処理するdivided attention(以下DA)はもっとも高次の機能であり,ごく軽微な脳損傷でもその障害が生じ得る。しかしながらそのための検査法はなく,注意障害軽症例に標準的検査を実施してもDAの障害を見逃す可能性がある。本研究はDA障害に特化した新たな検査法を開発するものである。本年度は,主に健常者を対象に机上課題の吟味を行った。健常者38名(平均年齢30歳)を対象に新しく考案したDA検査を実施した。本検査は聴覚的課題として数字の抹消課題(正答数は20),視覚的課題として4桁の加算(筆算)を同時施行するものである。なお,他の注意検査としてpaced auditory serial addition task(PASAT)(2秒)も行い,先のDA検査成績と比較した。聴覚課題の正答率,計算問題の正解数はそれぞれ90~100(平均99)%,17~37(平均26)題であった。いずれも教育年数,PASATの正答率とは相関しなかった。聴覚課題がほとんど全例で全問正答なため,計算問題の正解数を評価指標とするのが妥当と考えられた。これらの知見をDAの障害が疑われ,復職に失敗した脳外傷例(31歳)の成績と比較した。本例では,標準注意検査法(新興医学出版)では明らかな異常を認めなかった。しかしDA検査上,抹消課題は全問正答したが,計算問題は明らかに低成績であった。以上より,注意検査法として新たに考案したDA検査の有用性が示唆された。今後はさらに健常対照者数を増やし,より広い年齢範囲での基準値を設定する。加えて脳障害者の成績とも比較したうえで本検査法の意義,限界を検討する予定である。
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