研究概要 |
複数課題を同時処理する分配性注意は高次の注意機能であり,本研究では聴覚的課題と視覚課題を同時に行う2重課題を考案しその特性を検討した。本年度は健常者(20歳代~50歳代の4年代群で合計110名)および脳障害者(歩行,ADLの自立している脳外傷,くも膜下出血例)に施行した成績から以下の知見を得た。(1)聴覚課題における健常者の正答率,的中率,視覚課題の実施数には加齢変化を認めなかった。しかし計算課題の正解数,正答率については年齢に配慮した基準値の設定が必要と思われた。(2)健常者において各課題を単独で実施した成績と2重課題の成績を比較した。計算課題成績の全対象者の平均値(単一課題→2重課題)は実施数34.7→27.3,正解数31.8→24.1,正答率91.4→88.2となった。前2者はいずれも2重課題で有意に低下した。各年代に共通して2重課題負荷時には,取り組む数を減じて(処理速度の低下)正答率を維持する機序が示唆された。(3)患者群,健常群のデータを分析したところ,聴覚課題の正答率,視覚課題(筆算)の正解数は患者群で低成績だったが,聴覚課題の的中率は差を認めなかった。ほぼ90%の特異度を目安に各パラメーターで基準値を設定したところ,筆算正答数の感度が78%と最も高かった。しかし,これが正常範囲でも聴覚正答率が低い者がみられた。そこで両者を合わせた判定基準を設けると感度89%,特異度88%と良好な結果が得られた。(4)(3)で得られた2重課題の感度,特異度を標準注意検査法(CAT)(日本高次脳機能障害学会,興医学出版)のそれと比較した。CAT下位検査の感度は概して低く19~75%を示した。本2重課題は分配性注意の評価という観点からCATとは相補的に診断価値を有する可能性が示唆され,感度も高いことからその臨床有用性が示された。
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