助成最終年度においては、再度、他者に対する関心度・集中度を惹起する葛藤場面を含んだ提示課題の作成と、同課題の提示に対する両眼の眼球運動と唾液中コルチゾールの心理・生理的な指標による評価の可能性および、両指標間の関連性について、成人の被験者を対象に検討した。 1. 障がいに関する葛藤場面(障がい児・者の身体活動を題材の一部に含む)を盛り込んだ提示課題を作成する 2. 被験者(成人)に1.で作成した課題を提示し、そのときの反応を質問紙およびビデオ撮影による行動観察と、両眼の眼球運動の軌跡測定結果、唾液中のコルチゾール濃度の測定結果と対照し、検討を行う。 9名の大学生に1.で作成した提示課題を各々1分間凝視させた後、自己の対応判断を2分間口頭で述べさせた。凝視時及び回答時の両眼の眼球運動の測定は、頭部に装着した測定装置(TalkEye II)により行った。実験開始前、終了直後に唾液を採取し、唾液中のコルチゾール濃度について分析を行った。また、対照実験として、同一被験者に計算課題を課し、課題遂行前後での唾液中コルチゾール濃度について分析を行った。 その結果、唾液中のコルチゾール濃度は対照実験では明確な変化がみられなかったが、提示課題に対する回答前後では有意に減少した(p<0.05)。また、唾液中コルチゾール濃度の変化と両眼眼球運動の分散度との間にも明確な関係は認められず、被験者のストレス反応性や統制力との関係も確認できなかった。 以上の結果は、本研究で作成した比較的低刺激のストレス課題に対する生理心理的な応答を、眼球運動や唾液中コルチゾール濃度の変化などの指標を用いて評価することの困難さを示しており、本研究が意図した、インクルーシブな身体活動の経験の有無がこのような生理心理ストレスに対する応答に影響をおよぼすかどうかについての検討を行うには、さらに研究手法・評価手法の詳細な検討が必要である。
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