本研究課題は、アスリートの現実適応(広義のパフォーマンス向上)と個性化(内的成熟・心理的成長)との間での共時的な関係性を種々の側面から明らかにすることを目的とした。本年度は、次の2つの下位課題に取り組んだ。1)アスリートの自己形成における「対話的競技体験」の持つ意味の検討:アスリートの外的自己体験(競技経験)を内的自己の発達へと内在化させる体験として「対話的競技体験」を措定し、質問紙調査ならびに面接調査を行った。対話的競技体験尺度を作成、実施し、因子分析の結果、本尺度が「体験への信頼的態度」「体験を通して自分に向き合おうとする態度」「体験や競技に対する主体的関わり」「気づき・洞察」の4つの下位要因から構成されることを明らかにした。さらにこれらの要因よりなる対話的競技体験が、アスリートの自己形成を促進させていることを明らかにした。2)「内界探索型メンタルトレーニングプログラム」のトレーニング機序の検討:(1)本プログラムについては、すでに10年以上前から学生アスリートのメンタルトレーニング講習会で採用してきており、これまでの指導経験を踏まえて、本トレーニングプログラムの構成ならびにその展開について論文化した(投稿中)。このような作業を通して、心理的成長に働きかけるトレーニングプログラムの開発に至った著者らの背景についても明確にした。(2)講習会期間中に得られた受講生の各種体験資料(描画作品、グループ箱庭記録、受講生のトレーニング日誌、他)を分析し、本プログラムのトレーニング機序について検討した。その結果、本プログラムによって、「課題の明確化」「課題解決への動き」そして「競技姿勢の変化」といった内的変化を引き起こし、それらがパフォーマンスを引き起こすことを明らかにした。
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