本研究課題は、アスリートの現実適応(広義のパフォーマンス向上)と個性化(内的成熟・心理的成長)との間での共時的な関係性を種々の側面から明らかにすることを目的とした。本年度は、次の2つの下位課題に取り組んだ。(1)アスリートのコツ獲得における一連のプロセスをモデル化し、コツ獲得への取り組みと同期して、心理面でどのような変化が生じるのかを明らかにすることを目的とした。日本を代表した元アスリート20名のコツ獲得に関わる二次資料に対して、修正グランデットセオリー(M-GTA)を適用し、プロセスモデルを提案した。そこでは時系列に、コツ獲得を志向する→コツ獲得に向けた取り組み→コツ獲得後の変化、といった3段階に分けられた。そしてさらに、コツ獲得経験を有するアスリート3名にあらたに半構造化面接を施し、先のモデルの精緻化、ならびにコツ獲得に伴う心理変容を明らかにした。コツ獲得経験は、主体性の確立、競技の世界で生きる為の「武器」の獲得、現在の個人にとってのベース、といった心理的意味を持つと結論づけた。(2)本研究計画の最終年度であることから、研究成果のまとめを下位課題の一つとした。内界探索型メンタルトレーニーングプログラムの有効性について、T大学スポーツクリニックで開催したメンタルトレーニング講習会の資料を基に、種々の角度からそのプログラムの有効性を検証した。また、本法のより有効な展開を実現するために、プログラムの基本理念、特徴そして展開方法についてまとめ、論文投稿を行った。さらに、あるオリンピックメダリストの競技引退を課題とする相談事例を検討し、引退後の精神内界の変容(内的課題)として、「引退の内的儀式:喪の作業」「内界の旅:心の広がりを求めて」「現在と過去・未来の繋がり:自己の連続性」の3つの側面を明らかにした。
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