本研究の目的は、我々がマウスであきらかにしつつある1)生理的欲求の上昇に伴う大脳皮質活動の上昇が、血圧反射を抑制し、動機づけ行動を開始させるのに必要なのではないか、2)この一連の反応にはvasopressin V1a受容体が関与するのではないか、という2つの実験仮説がヒトでも通じるか否かを検証することである。 21年度は、マウス同様のパラメータをヒトで測定するための、実験環境づくり、脳波、血圧反射ゲイン測定のためのセットアップを行った。脳波は現有の生体アンプを用いて測定し、血圧は連続測定装置を用いて測定した。血圧反射ゲイン(ΔRRI/ΔSAP)は、自発性動脈圧動揺(ΔSAP)に対する心電図にR-R間隔応答(ΔRRI)の相互相関関数から求めた。 この測定系の本研究に応用できるかどうかを検証する目的で、覚醒時と睡眠時の血圧反射ゲインをヒトで測定した結果、睡眠時には覚醒時に比べ、血圧反射ゲインが24%増加することが明らかとなった。すなわち、これらの結果は、覚醒時の大脳皮質活動の上昇は心臓血管中枢に働き、圧反射ゲインを抑制し、中枢性に血圧上昇に働くことを示唆する。 また、並行して、V1a vasopressin受容体多型(rs1042615)のTT型を保有する男性被験者はCC型に比べ運動トレーニングの継続率が低下することを発見した。さらに、マウスにおいてV1a受容体遺伝子欠損マウスでは、大脳皮質活動に伴う圧反射ゲインの抑制反応が阻害され、運動開始時の昇圧反応が起こらないことを認めた。 22年度には、これらの成果を国際学会で発表し、一部は論文にまとめ投稿中である。
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