近年、人間の目常的な身体活動と、その生活環境との関連性についての研究に関心が集まっている。たとえば、歩きやすく安全な歩道が整備されている生活空間、魅力的な商店街が軒を連ねる生活空間に居住する人々と、歩きにくく危険な生活空間に居住する人々とを比較すれば、前者のほうが体を動かす機会と時間が長くなると予想される。このような関連を検討するには、「人間」がどのような空間におかれた場合にどのくらいの身体活動を行う傾向にあるのかという基礎データの蓄積が必要である。本申請課題は、上海、ポートモレスビーなど都市部に居住する住民を対象にGPS(氾地球測位計)と加速度計を用いて収集したデータを、地理情報システム(GIS)で解析することにより、都市住民が、いつ、どのような土地利用区分(都市環境)で、どのくらいの強度の身体活動をするかについてのエビデンスを収集することを目的としている。健康都市(=身体活動がしやすい)を実現するための基礎的な知見を提供することができると考えている。 平成21年度は、ポートモレスビーと上海でデータ収集と分析をおこなった。上海では、ANEWSとIPAQの中国語版を作成し、およそ250名の住民に対して聞き取り調査をおこなった。同時に、加速度計とGPSを連続する1週間装着してもらい、活動強度の時空間パタンについてのデータを収集した。ポートモレスビーでは、現地社会の状況によりGPSをもちいた調査ができなかったため、IPAQと加速度計を用いた調査を実施した。現在、上海で収集したデータについては分析をすすめている状況である。ポートモレスビーのデータの分析によると、次のことが明らかになっている。(1)国際基準を適用した場合、過体重あるいは肥満と診断される個人が多い。(2)身体活動レベルは、先進国の推奨値と比較すると必ずしも低くない。(3)個人のBMIの説明要因としては、食生活のパタンが重要であった。
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