今日の職域では、職業起因性の疾病よりも生活習慣病が健康管理上の問題となっている。昨今の分子生物学の発展を背景に、遺伝的個人差の解析が可能となり、肥満症や高血圧に関連した遺伝子に関する知見も得られつつある。本研究では、データ把握が比較的容易である職域集団を対象として用い、遺伝子診断結果を利用した健康指導・栄養指導に関する個別支援プログラムの開発を目的とする。 1.遺伝子診断と生活習慣病に関する断面調査 九州内に位置する企業社員のなかで、健診データとゲノム提供を受けた社員1355名を対象とした。 (1)健診データ、飲酒歴、喫煙歴、運動量、仕事量に関する情報とβアドレナリン受容体遺伝子(Beta3-Adrenergic Receptor ; ADRB3)多型(Trp64Arg)頻度との関連を評価解析した。その結果、Arg/Arg型は20歳からのBMI増加量との関連が認められ、Arg/Argタイプ保有者が肥満の遺伝的背景となっている可能性が示唆された。 (2)飲酒行動を規定するアセトアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)遺伝子多型と高血圧と関連について分析を行った。その結果、ALDH2遺伝子多型と飲酒量の高血圧の発症に対する独立した関連は見られず、ALDH2遺伝子多型が飲酒行動を支配することで高血圧発症に関わる可能性が明らかとなった。 2.遺伝子診断を用いた介入研究 飲酒行動を規定するALDH2遺伝子型を用いた節酒に関する健康指導を実施した。その結果、通知1年後の変化をみると、有意差はないが、通知後群で週飲酒量が減少傾向を示した。通知群、非通知群ともに、肝臓機能の評価指標であるGOTとGPTの平均に有意な変化はみられなかった。
|