深部体温を個人特性に合わせて制御することによって、眠りと目覚めを人為的にコントロールできないか?その可能性を探る目的で、21年度は、身体末梢を近赤外線照射あるいは遠赤外線照射した時の深部体温変動と入眠潜時短縮を検証した。 このために、先ず26名(18-24歳)の被験者について、快刺激(不快でない刺激)となる条件で近赤外線(強度最大波長1.3ミクロン)を足底に照射し、脳波、心電図、照射部皮膚温、舌下温を記録・解析して、次の結果を得た。 1. 舌下温の記録から深部体温の変動を推定すると、近赤外線による15分間の快刺激照射条件では平均0.5℃の範囲で温度の上昇下降が認められた。非照射条件では温度変動はわずかだった。 2. 脳波のスペクトル解析によって、アルファ波出現率が50%以下となるまでの所要時間を判読して入眠潜時を推定すると、照射時平均3分、非照射時平均5分となり、照射によって短縮していた。 次いで、遠赤外線源(表面温度40-47℃)で頸部から下の背側を間接照射する環境で、同様に入眠潜時を推定したところ、照射時平均8分、非照射時平均15分となり、照射によって短縮していた。(非照射時の入眠潜時5分と15分は、両者の測定環境条件が異なるため比較しない。) この結果から、近赤外線を快刺激となる条件で照射することが入眠潜時を短縮する可能性を期待できること、また、照射に伴う調節性の深部体温低下が観測される前に既に入眠する可能性のあることが明らかになった。ひとつの定説である深部体温低下による入眠誘導説とは異なる短時間の入眠メカニズムがありうることが示唆された。
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