研究概要 |
風邪(上気道感染症)は80~90%がウィルス感染であり,多くの風邪に抗生物質は無効である.したがって,風邪の罹患率を増減させる要因の解明や予防法の確立は重要である. 運動選手は風邪を引きやすいと言われるように,いわゆる行動体力の高い運動選手や活動的な学生の上気道感染率はむしろ高い(Jカーブ説).行動体力の高い者が防衛体力に劣るという一見矛盾した状況を免疫で説明することは難しい.むしろ,長期的にはトレーニング実施による防衛体力の向上があったとしても,低温環境下での身体運動という環境への暴露の増加が感染リスクを高めていると予想される. 本年度は,風邪の罹患が運動選手に多いことが,免疫機能の低下よりもむしろトレーニング時の上気道の血流量低下と関連するとの仮説を検証するために,運動時および運動後に上気道部の血流が低下するかどうかについて検討した. まず,レーザースペックルフローグラフィーを用いて運動中に上気道部および舌部の血流を計測する方法を確立した.その後,健常成人男女11名に,心拍数が100,120,140拍/分相当の強度での自転車エルゴメータ運動を20分間行わせ,その際の上気道部および舌部の血流を計測した.その結果,上気道部の血流は100拍/分強度の運動時に増加することはあったが,運動終了10分後までも含めて減少することはなかった.ところが,舌部で120,140拍/分強度の運動時には血流の低下が観察された.舌部では血流が減少したものの,上気道部については血流が減少しなかったことから,本研究では血流減少と上気道感染との関連は明示されなかった.
|