本研究では、酵素処理卵白の脂質代謝改善効果の検証を行い、次いで機能性ペプチドの分離と作用機構の分子メカニズムを明らかにし、さらに、このペプチドを利用した機能性食品素材の開発を試み、ヒトの健康増進に寄与することを目指している。 これまでの研究において、卵白の主要構成タンパク質オボアルブミンのペプシン消化物(OVAペプチド)を、脂肪酸合成酵素(FAS)の活性測定系に添加して直接的な影響を調べたところ、IC50に換算して数mg/mlの阻害活性が確認され、FAS阻害因子の本体は分子量1kDa以下の比較的小型のペプチドであると推定されている。そこで平成22年度ではまず、OVAペプチドがHepG2培養肝細胞の脂肪酸合成能に対する影響を調べた。OVAペプチドを培地に添加、さらに[^<14>C]acetateを添加して培養後、細胞から脂肪を抽出して、[^<14>C]の脂肪画分への取込量の測定を行い、これを脂肪酸合成量とした。その結果、OVAペプチドの添加により、HepG2細胞の脂肪酸合成量が減少することが確認された。次に、より正確なFAS阻害活性の評価を行うために、FASタンパク質の単離精製を行った。ラット肝臓ホモジネートより粗酵素液を調製し、硫安分画、超遠心、イオン交換・ゲルろ過クロマトグラフィーによりFASタンパク質を単離した。単離されたFASタンパク質は高い比活性を示し、SDS-PAGEでは250kDa付近に単一のバンドとして現れた。また、-80℃での長期凍結保存後も活性は維持された。OVAペプチドを逆相HPLCに供し、溶出ピークを画分1~6に分け、精製FASを用いてそれぞれの画分の阻害活性を調べたところ、画分2、4、6にFAS阻害活性が認められた。さらに、これらの画分をHepG2細胞に与えたところ、脂肪酸合成量の減少が確認され、FAS阻害ペプチドの効果が裏付けられた。
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