研究概要 |
本研究は,軽量で快適な新規防刃被服材料と構造を開発することにより,最終的には安心・安全社会の構築に寄与することを目的としている.このために(1)防刃材料の工学的評価法の確立(特にアイスピックなどの鋭利な刃物に対する性能),(2)新規防刃材料の開発,(3)動作快適性,(4)温熱快適性の確保の4点について研究を進めている. 平成23年度は,(1)防刃材料が突き刺しを阻止する過程や荷重変化を観察し,計測評価する手法を構築することができた.(2)セルロースウイスカー(繊維状ナノ結晶)やカーボンナノチューブの添加により、高強度ポリビニルアルコール繊維の引張強度・弾性率を増加させることが可能であることを確認できた.また通常フィブリル構造発達に伴う引張強度・弾性率増加とトレードオフの関係を示す傾向にある繊維軸と直角方向の強度もあわせて向上させることが可能であることを見いだした.さらにケプラーやザイロン等のスーパー繊維の欠点である低耐光性を,無機ナノ粒子を用いた無電解法による高密着性めっき形成により大幅に改善することができた.(3)防刃衣服の動作快適性について評価し,具体的な改善点を見いだすことができた.具体的には,硬質耐刃材が入った防刃服の着用実験により拘束感が生じる動作及び部位を明らかにし,また締め付け度による衣服圧分布の変化から適切な着用状態を検討した.その結果,適度な締め付けで身体に密着させると着用感が比較的良いことが明らかになった.また特に前屈時に拘束感が生じるため、前部耐刃材が前屈に追従できることが重要であることが知られた.(4)防刃衣服の大きな問題である暑暖環境下での冷感を得る技術を検討した.具体的には,下着の外表面上を一様に水で湿らせ,その蒸発潜熱で衣服内微気候と身体を冷やすシステムを試作した結果,29℃60%の人工気候室内で十分な冷却が得られることを確認できた.
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