動物性核酸系うまみ物質の代表である5'-イノシン酸(5'-IMP)は、ヌクレオチド(5'-AMP)の酵素的変換により、シイタケに含まれるうま味物質である5'-グアニル酸(5'-GMP)は加熱過程での核酸(RNA)の酵素的分解により、それぞれ生成されるとされている。しかし、動植物や菌類のヌクレオチド代謝経路全体を見渡すと、様々な食品において、これら以外の経路によりうまみ物質が生成される可能性も考えられる。本研究では、動物性食品(魚介類)と植物性食品(キノコ類、野菜類)の加工中の核酸系うまみ物質生成において、これまでに考慮されてこなかったうまみ物質生成経路の関与の有無を明らかにし、うまみを最大限に引き出す実用的な調理・加工条件を提案することを最終目的とする。本年度は、いくつかの未加工の食品について、^<14>C標識したプリン代謝関連物質のトレーサー実験により、うまみ物質生成経路の概要を把握した。その結果、即殺直後の鯵では、5'-AMPの分解により生じるアデノシンやアデニンを再利用して再び5'-AMPとする活性は強いが、アデノシンの脱アミノ反応や5'-IMPの分解により生じるイノシンやグアニル酸の分解により生じるグアノシンを再び5'-IMPや5'-GMPにする活性は弱いこと、シイタケで見られるような60℃付近での加熱中のRNAからのヌクレオチド生成量は極めて少ない事が明らかとなった。一方、大根においては、イノシンやグアノシンを再び5'-IMPや5'-GMPにする活性が認められ、加熱中にRNAから少量のヌクレオチドが生成した。これらの基礎知見を基にして、今後は塩蔵や乾燥などの加工中の各代謝経路の消失や発現について調べ、加工中のうまみ物質生成量の調節に関わる経路の把握を試みる。
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